ラクダの背で生まれたチーズ
チーズのはじまりは紀元前4000年頃のメソポタミアと言われています。諸説あるそうですが、アラビアの民話では、アラビアの商人がヤギのミルクを動物の胃袋でつくった水筒に入れてラクダの背にくくりつけて砂漠を旅していたところ、ミルクが発酵して水分のホエーと、固形物のカードとに分離したことがはじまりという物語が残っています。動物の胃袋にはレンネットと呼ばれるミルクをかたまらせる酵素が含まれていて、移動する際に揺さぶられることで偶然の産物として生まれたのです。食べてみたところ、とてもおいしかったのでしょう。その後、各地に広まりました。西はアラビア半島を経てギリシャ・ローマ帝国へ、東はシルクロードを通って中央アジアやモンゴル、中国そして日本へと伝わっていったとされています。
(★写真 メソポタミア文明orらくだ)
羊飼い、修道院、職人…
西に広がったチーズ
ヨーロッパでは寒冷な気候風土に合わせ、チーズは多様化していきます。もっとも古いチーズのひとつとして知られるのがギリシャのフェタチーズ。おもに羊乳からつくるもので、古代ギリシャの羊飼いがつくりはじめてから現代に至るまで、その製法はほとんど変わらないと言われています。
修道院でもチーズづくりは盛んに行われてきました。ロックフォールやパルミジャーノなど、現在、広く親しまれるチーズの基礎は修道院で生まれたとも言われています。カマンベールやヴァランセ、ウオッシュドリンドなど、多くのソフトチーズも修道院で生まれています。
チーズの需要が高まると、チーズ職人たちがあらわれるようになります。養成学校ができたり製造技術が見直されるほか、微生物の研究も進んで安定した酵素の供給も可能になり、チーズの生産基盤が確立されていきました。
(★写真 修道院とチーズ)
東に広がったチーズ
チーズづくりは東はインドへと広がっていきましたが、インドでは牛は神聖な動物。そこで、乳を固めるレンネットと呼ばれる酵素を牛の胃袋から抽出するのではなく、酸や植物を用いて代わりにするようにと考えられるようになりました。さらにインドの多くの人が信仰するヒンドゥー教の教えでは、食物は新鮮なことが重要。そこで熱しても溶けないパニールをはじめとしたフレッシュチーズが生まれたとされています。
チベットでは遊牧民によるヤクのミルクを使ったチェルビーと呼ばれる硬質チーズ、モンゴルでは乳酸菌で発酵させたミルクを加熱後に天日乾燥させてホロートという長期保存できる硬質チーズがつくられるなど、各地で工夫を重ねてチーズがつくられ、伝えられています。
(★写真 遊牧民とヤクorヒンドゥーと牛)
こうした多種多様なチーズは、その土地の気候風土をふまえ、そこに生きる人の知恵のもとに生まれました。初期の方法にこだわらず、自分たちなりのやり方を駆使した背景には、伝わってきたチーズがあまりにもおいしかったのではないかと想像されます。どうにかして自分たちでもつくりたい。その強い食への思いが、今のチーズ文化の多様さに見て取れます。
